Attention!
『不思議の国のユーリさん』はタイトル通り『不思議の国のアリス』のパロディです。
パロディが苦手な方はご注意ください。
また、キャラ崩壊も激しくなる恐れがあります。ご注意を。
それでも読むよ!という方は下のタイトルをクリックして下さい。
2.ウサギを追って
ぐんぐん、ぐんぐん、落ちていく。
上を見上げると落ちてきた穴はもうはるか遠く、すっかり小さくなっている。真っ黒な中に小さく浮かぶ青空がなんとも平和で憎たらしい。
さて、底は。と下を見ると真っ暗闇だったはずがいつの間にか周りの壁一面が本棚で埋め尽くされていた。本棚と言ったものの、棚の半分以上はごちゃごちゃとした雑貨小物であふれている。
ランプやぬいぐるみ、トランプ、チェスに毛糸玉の詰まった箱。振り子時計に梯子にオルゴール。さらにはティーセット、ケーキにクッキー、魚型のパイ。そんなものと一緒に分厚い本が並んでいるのだからおかしいったらない。なんとも混沌とした空間をまだまだぐんぐん落ちていく。
一体どこまで落ちるんだ、とユーリがため息をついたころ、ふっと身体が浮く感覚。急に降下速度がゆるんだのだ。驚いて下を覗くがユーリの認識する前にどさっ、ばさぁと派手な音がした。気付いたときにはユーリは木の葉の山の上にいた。ばさばさぱらぱらと木の葉があたりを舞い落ちる。
あれだけ長い時間下降し続けていたわりに着地の衝撃はほとんどなかった。おそらくなぜだか落ちた降下速度とこの木の葉のクッションのおかげだろう。
ユーリはもう何がどうなっているのかわけが分からないながらにも、どうにでもなれと半ばヤケになって立ち上がる。
辺りを見回すとそこは小さな小部屋であった。どうやらユーリの着地した場所は暖炉の中であったらしい。貴族の屋敷の一室のようなところであったが、家具はガラスのテーブルと真っ赤なソファの他にはなにもない。出口は、とさらに見回すが、なんと困ったことにこの部屋にはドアが見当たらない。それどころか窓もない。なんだここは、と愕然とするユーリであった。と、そこに
「ユーリ!ユーリ!」
ユーリを呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえた。
声をたどって首を回すが、どこを見ても目当ての姿は見えない。おかしいな、とユーリは首をひねる。まさか空耳か。確かに話の通じる人の登場を心から望んではいるが。そう思っていると、また声が。
「ユーリ、ユーリ!こっちだよ」
声がするのは部屋の端の方。その方向へと進んでみると、ちょこんとちっちゃなドアがあるのに気がついた。高さは50センチほどだろうか。飼いネコ用の通路のようなそこを覗きこむとなにやらちょこちょこ動き回るものがいた。
「カロル!?」
そう、それは見紛うことなきカロル・カペルその人であった。ギルド凛々の明星の首領、つまりはユーリの上司にあたるわけで、もう付き合いも長い人物である。だが、今目の前にいる彼はユーリの知っている少年とは違っていた。だって身長が20センチ!どうみても手のひらサイズのよくできたミニチュアである。だがしかし、そのミニチュアはこちらに向かって必死で手を振っている。しかもこれまたヘンテコな格好。全身緑で恐竜みたいな尻尾の出ている着ぐるみを着ていた。
――カロル、お前もか。
ユーリは頭が痛くなるのを感じた。
「ユーリ、やっぱり来ちゃったんだね」
そう言ってカロルは苦笑する。
「カロル、これはどういうことなんだ?」
どっかと小さなカロルの前に座って尋ねる。するとカロルは小さなドアノブに乗っかって(カロルよりもドアの方がだいぶ大きいのでドアノブをすっかりまたげるのだ)神妙な顔になってユーリを見つめた。
「だってユーリが悪いんだよ」
「オレ?何かしたか?」
『ユーリが悪い』は先ほどパティが言っていた。さらにジュディスのあの怒りようである。自分が何かやらかしただろうことはなんとなく予想していたが、いかんせんユーリにはその記憶がない。いくら思い返してみても心当たりがまったくない。それどころがこのへんてこな空間に来た覚えすらないのだ。ここはぜひともカロルに何らかの説明をしてもらいたいところである。
「したんだよ。だからジュディス、怒ってたでしょ?」
コクンとユーリはひとつ頷く。
「でもユーリは覚えてないんだよね」
「ああ、さっぱり」
あちゃあ、とカロルは頭を抱える。
「それはここの設定だから仕方ないんだけどね。なんでそんな面倒くさいことするかなー。もうー素直に仲直りさせちゃえばいいのに、みんなの考えてる事がわかんないよ」
ぶつぶつと呟くカロルにユーリは尋ねる。
「えーと、カロル?その『ここの設定』ってなんだ?」
「んー、ボクもよくわかんないんだけど、ここは絵本の中の世界?みたいな?」
「なんだよ、みたいなって」
「ボクだってよくわかんないんだもん。急に呼ばれたと思ったらこんなの着せられて!見てよユーリ、このヘンテコな衣装!みんなはいいかんじの衣装着てるのにさ、なんでボクだけこんな変なの……」
文句は衣装だけでいいのか、そのとんでもミニマムな大きさもどうかと思うぞなんてことばを飲み込んで、ユーリは拳に熱が入ってきたカロルをゆっくり制止させる。
「とにかくここは現実世界じゃない。オレの記憶が抜けてるのも仕様ってことか?」
そうそう、とカロルは頷く。
「で、ユーリはジュディスを追っかけて、仲直りして」
「……もしかして仲直りしないとこの絵本は終わらない?」
うん、とさも当たり前のようにカロルは頷いた。だが、喧嘩の原因も分からないまま、しかもこんな変な世界で仲直りしろ、なんて言われても正直困る。というか、そもそもなんでユーリとジュディスの喧嘩に他のみんなが関わってきているのかが
分からない。
「ホントだよ、痴話喧嘩は犬も食わないっていうのにね」
「…………」
どうやらユーリの心の声が表にでていたようである。
「でもね、ボクらみんな、早く二人に仲直りしてほしかったんだ。
二人が喧嘩してるとこはあんまり見たくない」
「……すまん」
そう言われるとユーリはいたたまれなくなる。その相手がカロルだと特に。
「なあ、オレ何やらかしたんだ?」
「それはユーリが自分で思い出さないと、ダメなんだって」
「……じゃあ、なんでジュディスは逃げてんだ?」
「それはそういう設定っていうのもあるけど……」
そこでカロルは言い淀む。そっとユーリの顔をうかがうようにし、言いづらそうに目を泳がせていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「ジュディスが、顔も見たくないって」
「…………本当にオレ何やらかしたんだ……」
手ごわいなあ、とユーリは遠い目だ。
「ま、まあユーリなら大丈夫だよ、がんばって」
「おう、任しとけ」
カロルの必死のフォローにユーリは笑う。
「っつってもオレはどこ行けばいいんだ?」
出られそうなところはカロルの乗っかっているドアくらいだが、これはいくらなんでも小さすぎる。
「それは大丈夫!あのテーブルに瓶があるでしょ?」
カロルがぴょこぴょこ飛び跳ねて指さす先を追ってユーリは振り返る。
先ほどは気がつかなかったが、いつの間にかガラスのテーブルの上にガラスの小瓶が置いてあった。瓶はコルクで栓がしてあり、『 DRINK ME 』と書かれたメモがついている。
「これか?」
ひょいとユーリはその小瓶を手に取ってカロルの前まで持っていく。
「そうそう、それ!それを飲んで」
「飲んでって……大丈夫なのか?『私を飲んで』って明らかに怪しいだろ」
「いいから、いいから」
もうどうにでもなれ、と促されるままユーリは栓を抜いて小瓶を一気にあおった。なかなか悪くない味だ、ともう一口飲もうとしたその時、突然ぐにゃりと視界がゆがんだ。
「!?」
落ちる!そう思ったが、浮遊感はなかった。そっとつぶっていた目を開けるとカロルが目の前にいた。いやさっきからカロルは目の前にいたのだが。そういうことではなく、20センチだったカロルが実寸大になって現れたのだった。
カロルがでかくなった?いや、それよりはむしろ……、とユーリはあたりを見回した。
「オレが小さくなった……?」
本当になんでもありだなあとユーリは関心する。
そう、天井がぐんと遠くなりテーブルもソファーもまるで山のようになっていた。そしてもちろん小さかったドアも。
「さあ、行って。この先にジュディスがいるよ」
環境の変化についていけずぼーとしているユーリにカロルが言った。
ガチャリとドアが開いて部屋に日の光が差し込む。
「ちゃんと仲直りしてきてね」
「ああ、サンキュ」
カロルの頭をがしがしとかき混ぜるとカロルはくすぐったそうに笑った。つられてユーリもはにかむ。
「――いってくる」
そうしてユーリはドアをくぐった。
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カロルはドアノブ兼トカゲのビルです。
ドアノブコスはさすがにかわいそすぎました(笑
言い忘れてましたがユーリとジュディスは恋人設定です。